ビニール袋ひとつに、カステラ、アーモンドプードル、生クリーム、そしてたくさんの板チョコが詰め込まれた。普段の自分なら罪悪感で腹痛を起こしそうなほど多い。カロリー的な意味で。
袋を持ってくれたキョーヤは、大して苦でもなさそうに手からぶら下げながらもしげしげと中を覗き込んでいる。
「こんなに使うのかい」
「誰かさんがたくさん食べるからね」
「後でその誰かの名前教えてくれる」
わかって言っているのならまだ可愛い方だと思う。でもキョーヤのこれは多分わかっていない。ここで正直に「雲雀恭弥っていう子だよ」なんて言ったら向こう数週間わたしのおやつは没収される。理不尽だ。
「これは何になるの」
「カステラを丸めて、チョコでくるむんだよ。チョコが固まると外はパリパリ、中はしっとり」
「ふぅん。おいしそうだね」
普段通りの無表情に、少しだけ期待の色が込められる。後でもっと楽しい顔が見られるんだと考えれば、これからの作業もがぜんやる気が出てくる。
学校近くのスーパーから家庭科室に直行したのは、キョーヤが「小腹が空いた」と言い出したのがきっかけ。ちょうどお互いに手持ちのお菓子を切らしていた。
「君が料理をするの、見たことないな」
言外に「見たい」と言われているのはとてもよく伝わった。わたしもお腹が空いていたし、キョーヤに何か作ってあげたいと少し、ほんの少しは思っていたから乗ることにした。
部屋の片隅で湯煎の準備をするのを、キョーヤは袋を片づけながらじっと眺めている。
「簡単にできるんだよ。カステラとアーモンドを混ぜて、生クリームで丸めて、溶かしたチョコを絡めて」
「わかった」
「えぇ……」
素手でああまで簡単に板チョコを粉砕するひとを初めて見た。包装紙から湯煎のセットに流し込まれるのはチョコというか砂利だ。とてもよく溶けそう。
「強い……」
「次は?」
「えっと、カステラを丸めるよ。こうやって」
「それで十分お菓子に見えるね」
「だめだめ、これは途中だから……って痛い痛い、噛まないでよ」
摘んだカステラのボールをわたしの指ごとかじった犯人は「おいしい」と満足げだ。これは完成品を口に突っ込んで反省させないといけない。
何とかチョコのコーティングを完成させて、第一陣が冷えたころ。キョーヤはタイマーが鳴る数十秒前からそれとなく冷蔵庫の前に陣取っていた。待ちきれないのが伝わって、思わずくすりと笑ってしまう。
「楽しみ?」
「それなりに」
冷たいお皿を机に上げると、席についたキョーヤは早速一粒を……食べない。
「どうしたの? もう完成なのに」
「君が食べさせてよ」
「ん?」
「君が食べさせてよ」
「ん?」
堂々巡りだ。そして問題はそこじゃない。
「君の料理だ。だから君の手で食べさせてよ」
「イコールが働いてないよ」
「だめなの」
当然だめと、答えるつもりだった。
キョーヤは席からわたしを見上げて、若干首を傾げている……ように見える。いつものニュートラルな表情で。
何だか、何だか……きゅんとした。気がする。
「……可愛い」
「何か言った」
「可愛いね、キョーヤ。おねだりが上手」
本気でわかっていない顔、その唇にチョコのボールを持っていく。いい香りだ、と小さくつぶやいて開かれた口が次にくれることばは、わたしがいちばん嬉しいものだった。
