ぽとりと、頭上に降ってきたのは朝顔だった。続いて、窓から身を乗り出す彼女の焦った声。
「ごめんねー、それわたしのー」
拾い上げたそれは、まあまあよくできた造花だ。そろそろ街の七夕祭りの時間だと思い出す。急いで降りてきた彼女のクラスでは、ありったけの造花と折り紙の星を飾るのだと聞いた。
手渡した朝顔をベストの胸元に挿すのが、鮮やかに映える。
「キョーヤはもう終わったの?」
「まだ。屋台の見回りに行くよ、もう通りで準備が終わるころだ」
「あぁ……」
妙に悟った顔をする。
「いっしょに来るかい」
「行きたいけど、手伝えないよ」
「何すると思ってるの」
「破壊活動」
「半分当たりだ」
ふたりで歩く街はすっかり祭りの色に染まっていた。商店街には屋台だけではなく提灯、特売ののぼり、呼び込みの声、浴衣の子どもたち――沈む空の色と反比例するような活気が満ち始めている。
「もう半分は集金でしょ?」
「そのつもりだったけど、君は何をしたい?」
楽しげに周囲を見回していた目が、驚いて瞬いた。
「射的……え? いいの?」
「少しならね。僕も射的にするよ、勝負しようか」
「いけないんだー」
委員長権限だ、と仕事中の身分をからかいながらも彼女は笑顔で僕の手を引っ張って早足になる。
ここ最近、彼女は暑さで参っていた。さっき朝顔を取り落としたのもそのせいだろう。それが上向き始めたのが目に見える。
――とはいえ、この結果は大して予想外でもない。
「強すぎる……」
「君が弱いんだ。悔しかったらもっと的を狙う習慣つけたら」
「……的を狙う習慣……?」
「深く考えない方がいい」
弾は一回五発。彼女は掠りもさせずすべて外し、僕はすべて当てた。敗者は煎餅をひとつだけもらって、景品を受け取る手を羨ましげに眺める。
「そういえば、何当てたの? 見てなかった」
「これだよ」
五つ集めても、それは両手に収まるほど小さかった。すべて幼い子が使うような、プラスチック製の髪飾り。星のモチーフがとにかくきらきらと、細々としている。
「わー、可愛い! でも、これがほしかったの?」
「あげる」
青、黄、橙、水色。ヘアピンを四つ、適当な並びで彼女の髪に挿した。最後、赤い星のヘアゴムは……使い方がよくわからないから保留。
今の今まで大人しく突っ立っていた彼女は、色とりどりの星に飾られた。きょとんとした目に、星の中に、提灯の明かりが灯る。
「うん。朝顔もいいけど、今日は星だね」
「……そうだね……?」
「綺麗だよ」
――しばらくして差し出された煎餅の向こうに現れたのは、いちばん見たかった表情だった。
「ありがとう!」
本当に綺麗だと、思った。
