ここまでのあらすじ
四人でスイーツ満喫中に唐突に離脱した兎耳山丁子 (三週間ぶり三度目)。今回は桜が追いかけていった。
あらすじおわり
「ここで待ってろ、すぐ連れてくる」
半ば言い捨ててベンチを後にするのを、涼波はいきなり預けられたソフトクリームふたつとこちらを見比べて混乱したように見送る。十亀の方はひらひらと手を振っただけだが、顔を見るにそこそこ察してはいるようだった。この一時解散が何なのか。
「兎耳山くんどうしたのかな?」
「こないだの子猫、見つけたのかもねぇ」
子猫。ものはいいようだ。ちらちら見え隠れしてちょこまか逃げ回るのは確かに共通点。
当たりをつけて、ソフトクリームを買ったキッチンカーが停まっているクリーニング屋の裏に回る。
影になったそこにはすでに、三人の青年が倒れていた。猫と彼らが決定的に違うのは、徒党を組んだ上で非力な女から狙おうとする腐った性根だろうか。
そして、いつも猫に懐かれているこの男はひとりでしゃがみ込んで彼らを見下ろしている。
「オレさ、亀ちゃんもミケちゃんも大好きなんだよね」
シャツの猫背。奇抜なシューズの底。見た目も口調も兎耳山はいつも通りだ。こちらからは表情が見えないだけで。
「ふたりがいっしょだととってもかわいいんだよ。にこにこで、柔らかくて、オレまであったかくなって、好きってそういう感じなんだなって。桜ちゃんもそう言うよ、きっと」
「捏造やめろ」
後ろから思わず口を挟むが、兎耳山はもちろん地面に転がる彼らも答えない。
休日、真昼のさわめきが、ここでは嘘のように遠かった。気絶まではしていないらしい三人は、コンクリートの上で完全に怖気づいてことばを失っている。ひとり軽やかにしゃべり続ける男の、怒気からはほど遠いのにひとつ間違えば喉を食い破られそうな威圧感のために。
「桜ちゃんって、すっごく優しいんだ。町のひとから頼られてるし、ふたりのこと応援してくれるし、あとパンもごちそうしてくれるし。オレといっしょで亀ちゃんたちのこと大好きなんだよ。オレ桜ちゃんのことも大好き。だからさ」
やはりこの男はいちチームのトップなのだと思い知らされる。
「邪魔とかしないよね?」
好きを語るその口で、静かに、それだけでとどめを刺してみせたのだから。
こちらにまで震えが来るほどに。
***
「迎えに来てくれたんだ! じゃあ桜ちゃんも?」
「あぁ、気づいてた。十亀も……あからさまな尾行しやがって、あいつら」
「話がわかるやつらでよかったねー」
引き返す道すがら、このままスキップでもし始めそうな足取りはいかにも上機嫌。これならベンチまですぐに戻れそうだ。
だから今目にしたはずのことへの現実味が薄れていく。
あのとき、兎耳山の顔を直視していなくてよかったと思う。この後でまた頬をアイスでべとべとにする男が、十亀と涼波を笑顔でながめる人間が、その時間をぶち壊しにする存在をどんな目で見下ろしていたのか。
知らなくてもいいことだ。
「ミケちゃーん、亀ちゃーん、お待たせー!」
いつもの騒がしい兎耳山に手を振って応えるふたりは、とくに。
ランダム単語ガチャ No.78「嬉しい」
