ハレーション

 

 このごろはオリの屋上で昼寝をすると、いつの間にか周りに三人が集まってきている。仰向けのちょーじはすぐそばで大の字になって、片方の手の甲を俺の腹に投げ出し。その奥のフェンスに寄りかかってこくりこくりと船を漕いでいるのは、遊びに来ていた(と、本人はなかなか肯定してくれずに通りがかりだと言い張る)桜。腕を組んで少し窮屈そう。

 ケイちゃんはといえば、また真横にぴたりとくっついていた。温かそうな丸い指がジャケットの裾をちょんとつまんで。

 全員、無防備に眠っている。この季節にしか成立しないことだ。

「……風邪ひいちゃうよぉケイちゃん、こんなところで」

 自分を棚に上げて、まだ目覚め切らない腕も上げてケイちゃんの頭だけでも抱き込んでみる。ここが硬くて冷たいコンクリートの上だと、ちゃんとわかっていないのかもしれない。起きたら全身が痛んでいてもおかしくないシチュエーション。そうなるのはかわいそうだ。

 何より問題なのは。

「オレのことでっかい枕だと思ってない?」

 喉で音にもならずに消えたそれは、彼女へのほんのささいな疑問。自分から進んで彼女の枕になりにいっているくせに、ここ数日考えていたことだった。

 こうなっているとケイちゃんは、さながらお腹を出して寝そべる子猫。そんな隙を見せている相手は自分よりもずっと背が高くて、力だって強いのに。頬や耳をくすぐるよりすごいいたずらもたくさん思いつく大悪党。カラスみたいに突いていじめるなんて絶対しないけど、そうじゃないことは、本当にたくさん。

 そんな悪だくみがなされているのも知らずに、抱き上げてもそのまま自宅まで連れて行っても起きそうにないくらいに彼女はぐっすりだ。何か楽しい夢を見ているのか、唇はほころんで春の色。

 ――枕にしか、この光景を目にすることはできないだろう。今はまだ。

「信じてくれてるんだよねぇ」

 静かに前髪をなでる。ここは時間がゆっくり流れる、大事なひとたちがいるところ。その中にケイちゃんがいて、体温も感じていられる。

 それは直視したらまぶしくてどうにかなりそうなくらい、それ以上を望めばバチが当たりそうなくらい、得がたいこと。

 

ランダム単語ガチャ No.9697「ハレーション」