単なるジェスチャーだった。今日の授業のことを話してくれるケイちゃんが空へ両手を伸ばして、白い指先が白い雲を示した瞬間。
「それでね、こう……あっちゃんがスリーポイントシュートでね」
ふむふむと頷きながら目で追う先には丸い輪郭、なめらかな手の甲、そこから続く華奢な線。
手首。
「条くん?」
弾む歩みが、ころりと可愛らしい靴とともにぴたりと硬く止まる。コンクリートを叩く軽い足音はそれきりなくなって、周りは無人だ。道路を挟んだ向こう側のコンビニからひとり出ていくだけ。
低いところで丸い目が瞬く。
そこで、いつの間にか両手で彼女の手首を片方ずつ捕まえていたことにようやく気づき。
「ほ……っそいねぇ、ケイちゃん。細すぎて心配なくらい」
取り繕うのにありったけのリソースを注ぎ込んだ。それを見透かしているのかいないのか、くすくすと笑う声。
「条くんの手がおっきいんだよ」
「それにしてもだよぉ」
本当は、細いというより弱いに近い。ふたりのサイズが違いすぎて手の中で円周が余っているほどだ。もしかしたら片手で両手首まとめてホールドできるかもしれない。というかきっとできる。
できてしまう。
そのことに思い至り、真っ先に感じたのは熱だった。次いで焦り。みぞおちのあたりから発火してあっけなく全身に回り、その勢いに薪をくべるのはきょとんとした彼女の無言だった。
こちらの焦燥をひとつもわかっていない顔。
今なら。
――今?
何を想像した?
そんなこと知るはずもない。言語になる前の思いつきがあいまいなまま転がり落ちていった喉の奥へと追おうとしたとき、ケイちゃんからこぼれたのは震えた声だった。
「こそばゆいよー」
大声で笑い出すのをこらえるように。
――目が覚めたような心地で改めて見つめると、指が彼女の手首の内側をなぞっている。これは全くの偶然で、救いでもあった。
「……あー、ごめんねぇ。あんまりびっくりしたから」
超えてはいけないラインを超える寸前だったから。多分。
「条くんはボールくらい片手で投げちゃえそう」
「できるよぉ。バスケは大昔にやったきりだけど……」
平然と変わる話題。ついていくのがやっとなのは急展開ではなく背徳感のせいだ。もし気づかれていたなら、きっとケイちゃんの目をまっすぐ見られなくなる。
ランダム単語ガチャ No.5688「ヒヤリハット」
