倉庫のドアを破ることより、わたしの説得を優先する焦りを感じる打音だった。がんがんと金属を殴りつける耳障りなそれの合間に、外の彼の声がかろうじて届いて。
「あんただまされてんだ、だから俺と来いよ」
一見普通の、私服の男の子だった。けれどわたしを見るなり声をかけ走り寄り手を伸ばしてくるさまはただごとじゃない。反射的に逃げ込んだ先でこんなことになっているからカンは当たっていたわけで。
「十亀条! 副頭取だよ! 俺のダチもボコボコにやられてチームを追い出されて」
そんなでたらめ信じるはずない。言い返すことばは決まっていた。
バイトの準備をしていた十亀くんがここにいなかったらすぐにでもそうしている。
「ここのことちゃんと覚えてたねぇ。よかった……けがは?」
「ううん、平気……」
何となく言いよどんでしまう。この倉庫に逃げ込んだのを少し後悔しているから。
作業の手を止めて、呼吸を整えるのを待ってくれるのは一見平静。今も続くあの大声が聞こえているはずなのに。
「……あいつ、ずっと追いかけてきたの。十亀くんは悪いやつだっていじわる言って」
「ほんとのことだよぉ、それ」
だから、まさか。
はさみうちにされるなんて思ってもみない。
鉄色をしたテントの骨を背に、まるではりつけにされたように十亀くんは立ち尽くしていた。すとんと抜け落ちた表情が、だらりと下げた両腕が、それこそ体温のない寒々とした鉄骨のよう。
少し蒸し暑い倉庫の中で、彼だけが冷たかった。
「ごめんね」
緩く目を伏せて、すぐに視線をわたしに合わせて。
そのころにはいつもの優しい笑顔がある。元通りにならないのはわたしだけだ。知らない十亀くんがその長身のすぐ後ろに立っていることを確信するわたしだけ。
「でも、ケイちゃんを連れてくのは違うよねぇ。オレから話して帰ってもらうよぉ、だからここにいて」
「……うん」
「どこにも行かないで」
わたしの手をこわごわと掬い上げる、少し硬い指がある。握るよりつなぐよりずっと脆いそれは今の十亀くんの表情に似て。
「行かない」
それを、そうっと握り込んだ。
温かくなってほしかったし、握り返してほしくて。
「だから、十亀くんのこと聞かせて……」
「……うん、約束。待っててねぇ」
「守ってくれてありがとう」
ドアへ向かう後ろ姿を見送る間に、指は離れていく。
「それはオレのセリフだよ」
背中越しの声は遠く聞こえた。泣いているようにも、笑っているようにも。
ランダム単語ガチャ No.4471「裏切り者」
