拘束

 

 片腕でも事足りるくらい小さいくせに背中はがら空き、油断も隙もあり余っている。スマホを鞄に片づけているところへ静かに両腕を回せば、簡単に彼女を縛りつけられた。びっくりしてひっくり返った悲鳴を上げてももう遅い。

「捕まえたぁ」

 これが他の誰かなら。

「十亀くん? いつからいたの?」
「今追いついたところ。それより、もう帰るんでしょ……」

 メッセージを読まなかったのは意図してのこと。信号の前でたったひとり突っ立っているのを運よく見つけたからだ。細長く伸びる影は、夕方から先へ沈もうとする町の中ではすぐに消えてわからなくなってしまう。

 こうして腕の中で狭そうにしながら体ごと振り向けるのも、こちらを見上げるのも、無事でいるからできること。

「途中までは送ってくけどさぁ、念のため。歩くときは?」
「明るいところ」
「追いかけられたら?」
「お店に逃げ込む」
「売られたケンカは?」
「横流し!」
「ん、ばっちりだねぇ。じゃあ行こっか」

 手を差し出せば、笑顔で重ねられる柔い手がある。
 掴んでみたら、どんなに暴れられても振りほどかれることはないだろう。

 ――なんてことを考えていたひと幕を、チームのひとりが昨日見かけていたらしい。抱きついたうえ手をつないでいたのを羨ましさ半分にからかってきた後、ふと首を傾げる。

「帰さなくてもよかったんじゃね?」
「どういう意味?」
「十亀ならあのまま楽に引っ張って来られたのに」
「そんな怖いことしないよぉ」

 間を開けずに否定できた、と胸をなで下ろす自分がどこかにいる。

「するなら泣き落としかなぁ。寂しいからもう少しいてよ、って」
「えぇ……」

 煙に巻かれてくれた素直な彼はそっとしておき、しばし無言で歩いた。ああして抱きしめられてくれるのは、好きでいてくれるから。口うるさいくらいの心配を受け取ってくれるのは、信頼してくれるからだ。

 たったひとりにだけ開かれた光景が失われるとしたら。

「ケイちゃんに嫌われたらオレ、多分……んー、絶対?」

 それを天秤にかけたところで、きっと腕づくで連れ戻すことも閉じ込めることもできない。

「泣いちゃうなぁ」

 

ランダム単語ガチャ No.2318「拘束」