テレパス

 ジャージを脱ぐ手、ガットをなぞる指、日差しを避けるまぶた、わたしの隣に腰かける動き。

「跡部くんは綺麗だね」

 気づいたら口をついていたそれは、やっぱり相手には聞こえていた。タオルで汗を拭いながらこっちに投げられる目線は訝しげ。

「それは、ことばが足りないと思っていいのか?」

 でも、すぐそれは合点のいったような笑みに変わる。

「えっとね」
「あぁ、いい。お前の言いたいことは大体わかった。そっちはそっちに集中しろ」

 喉の奥で笑いながら、背後の樺地くんにボールを手渡すのを眺めながら「はぁい」とちょっと反抗的にお返事する。今日のわたしに任されているのはスコアの記録だった。あちこちのコートから上がってくる練習試合の結果を日誌に書き込んでいく。

 でも気になるものは気になる。

「ねぇ」
「おい話聞いてたか」
「何でわかったの? わたし詳しく言ってないのに」
「そんなに知りたいか?」
「うんうん。ね、樺地くん」
「いや、樺地はわかる側の男だ。なぁ樺地」
「ウス」
「えぇ……」

 即答されるなんて。練習の最中にこんなことで部長をひとり占めする状況をほんの少しだけ許してほしい。これはわたしのプライドに関わることだから。

「わたし、ひとりごと言ってないもん」
「御巫、お前には弱点がある」

 ぴたりと合わされた目は、逸らされない。思わず息を呑んで、見つめてしまう。

 本当に綺麗な目。きっと遠くまでよく見えて、視界は鮮やかに色づいているに違いない。こんな晴れた日はとくに。

 しばらく真顔でそうしていた跡部くんは、ふっと相好を崩した。

「顔が悪い」

 ――これは怒っていい。ぷつんといきかけたわたしを、寸前で身振り手振りで止めたのは樺地くんだった。いつもより青い顔で、若干俊敏に首を横に振っている。よかった、部長と取っ組み合いのケンカになるなんて目も当てられない。

「ありがとう樺地くん、危うく場外乱闘だったよ」
「ウス」
「物騒なヤツ」
「意地悪跡部くんの代わりに教えて」

 わたしのこの言い方もちょっと意地悪。困った顔の樺地くんを片手で制して、くつくつと跡部くんは笑い声を隠せない。

「それだ、いい加減気づけ。お前は顔に出すぎる」
「そうかなぁ」
「そうだ。なぁ樺地」
「……ウス」

 樺地くんそこは否定してほしかった。それじゃあ「跡部くんの一挙手一投足が綺麗(要約)」なんていう心の声も筒抜けだったことになる。そんなことを本人に? 目の前にいる本人と周りの子にバレてた?

「ほら見ろ」
「えっ何を?」
「そうじゃない。顔。今度は赤くなってやがる」

 思わず両頬に両手をぺたりと当ててしまう。熱い。手鏡をロッカーに置いてきて本当によかった。そんなの自覚したくない。

「お前で遊ぶのは飽きねえな」
「跡部くんのばーか」

 試合中のそれとは違う悪戯っぽい笑顔に思わず悪態をつく。何でだろう、うまく言い返せない。まるでくすぐられてでもいるかのように(ツボにハマったとも言う)朗らかに笑い続ける声が耳に心地いいけど、とりあえず悔しい。

「跡部くんの笑顔って可愛い」

 悔しいから、こんな率直な感想も伝わっちゃえばいいのに。