ピカレスクノベル
足を止めたのは、まじまじと観察するためだ。真夜中に連れ出された経験など一度もないだろう、ひと目でそうとわかる彼女の小さな不安が心地よかった。 効かない夜目のままこちらの袖を摘む指が白く浮かび上がる、新月の夜。「ヤク中ってわけじゃねーな、肌…
RE!短編:ベルベル
I,
あちらは文庫サイズの本と辞書。こちらはホットミルクとクッキー。それらを乱雑に並べたテーブルの向かいに座り込み目を瞬かせるだけの姿は、およそ切っ先を向けるにはそぐわなかった。こうして握っているのがどこでも手に入る安物のバタフライナイフであ…
RE!短編:ベルベル
ときめき
微かに甘い香り。たん、と硬いものへ打ちつけるのにかき消されそうな淡い水音。ナイフから顔を上げて首を傾けてみれば、キッチンに立つ彼女はまたも包丁を降ろしていて。「リンゴは昨日食べたろ」 やけに手こずっている。リンゴではなくカボチャでも相手に…
RE!短編:ベルベル