体温

「香りに温度はあると思うかい」

 おやすみを言おうとしたその唇は、ふとこぼした問いへの答えを持っていない。ゆったりとした瞬きをひとつ、それだけで彼女がよく温まってきたのがわかっただけ。

「君から温かい香りがする。柚子だね」
「持ってきた分ぜんぶお風呂に入れたから」

 湯上がりの体は抱きしめるとほのかに苦く、そして泡の弾けるように微かな甘い温もりがある。ふわりと柔い頬が幸せそうな色をしていた。

「キョーヤも同じ香りになるね。あったかくなるよ」

 おっとりと腕の中で微笑むのを見ると、先ほどの疑問はすぐに解決する。凍えるようだった冬至の夜は芳香に溶けて指先まで淡い熱で満たした。

「君は明日早いんでしょ」

 髪を撫でて部屋に向かうよう促す。僕が遅れて行くころにはきっと彼女は寝ついているだろう。苦くて甘い温度とともに。

 隣に横たわる時間が待ち遠しくて、浴室への歩が速くなる。