彼女の爪は丸くて小さい。ブラシがはみ出ないようにするのに神経を使うとは思いもしなかった。こんなことを休日になる度に丁寧に繰り返す彼女は相当気が長いらしい。
手のひらに乗せた白い指は、大人しく僕にされるがまま。
「キョーヤが塗ってくれるなんて。どうして?」
機嫌よく、けれど首を傾げるのは僕の性分に合わないことをわかっているのだろう。それでもこれを申し出たのには当然理由がある。
「君がおしゃれをするときはいつも楽しそうだ」
「そうかな」
今自分がどんな顔をしているかまるで自覚のないことばが落ちてくる。ふたりして見守る前で、淡い色を透かす爪にマニキュアの鮮やかな赤を重ねた。軽く息を呑むのさえ聞こえるほどの距離、乾きはじめの潤んだ光がよくわかる。
「だから今日は僕が、君を飾りたい」
ふと顔を上げると彼女と目が合った。ラメとは違う、よく見知った綺麗な輝き。ふわりとした微笑がそれをさらに深くする。
「嬉しい」
「そう」
目的はもう達成されたようだった。視線を彼女の指先へ戻してもその実感は消えたりしない。
「これからもっと可愛くなるよ」
密かに唇が綻ぶのは塗りの出来がよかったから――それだけではなかった。最後に彼女が見せてくれる笑顔がどんなものか、どれほどいじらしいかがわかっているから。
