「今。今完全に起きたら何かいいことあるの」
「えーっと、たくさん楽しい」
「ふぅん」

 キョーヤは二度寝から起きようとしない。こうして家に上げてくれた時点で、今回の企画を飲んでくれたも同然なのに。

「天の川! 流れ星! 最悪何か星を見ようって」
「焦らなくても星は逃げない」
「爆発が終わって消えちゃうかもしれないよ」
「こうしてる間には絶対ないよ」

 小さなあくび。縁側に適当に座布団を並べて、太くはない柱に器用にもたれて、完全に寝る構え。キョーヤの隣で三角座りを維持するのにも飽きて、こうして起こしにかかって早数分。成果はない。

 うとうととするのは、可愛いとは思う(口に出したら空のお星さまがひとつ増える)。でも、それとこれとは話が別。この季節、この天候、そしてニュースでは「絶好の何とか日和」と星見の話が繰り返されている。ふたりで空を眺められたら楽しいだろうな、そう提案したのをキョーヤは受けてくれた。

 星は逃げない。正論だとわかってはいても、少しでも長く同じものを見ていたくてわがままめいてしまった。反省して、雲ひとつない夜空を仰ぐ。黒になりきらない藍色をしているのは、屋根にぎりぎり隠れてしまっている月の光のおかげかもしれない。

「そんなに眠たいの?」
「ここに来た途端にこうなった。静かだからかもね」
「ご近所さんもわたしたちと同じことしてるんだよ」
「どうかな。案外中でそうめんでも食べてるんじゃないの」
「そうかも」

 脚を崩して、縁側から投げ出した。裸足をぷらぷらとさせるのが気持ちいい。微かに虫の鳴く音、そよ風の後にある葉擦れの音、キョーヤの言うとおり、耳に心地いい空気が満ちていた。

 白、青、橙。大小さまざまな光が散らばっている。ちらついて見えるのは大気の何とかのせいだと授業で聞いた。水面で揺れるような輝きがため息をつきたくなるほど綺麗で、左から右へと順にたどって――キョーヤの横顔が視界に入った。

 眠たげに、でも確かにわたしと同じ空を見上げる目。

「……星」
「何」
「キョーヤの目。星が映ってる」
「そう」
「うん。きらきらしてるよ」
「……君にもね」

 目が合う。横目にわたしを映して、ひとつだけ瞬いた。

「おいで」

 手招きされるままそちらに近寄ると、肩を引き寄せられる。キョーヤに寄りかかるような体勢になって、触れたところが温かくなって――それは一気に来た。

「……すごい」
「主語」
「わたし、いきなり、眠たくなった……」
「楽な姿勢だからだよ」
「キョーヤは重くないの」
「僕はこれがいい。ねぇ、意見が一致したんだからいいでしょ」

 耳元で小さく言われるのはつまり「だから眠ろうよ」という話。成長期だね、と憎まれ口を叩くと仕返しに頬をつつかれた。地味に力強い。

「いっしょに星を見るのも、いっしょに眠るのも同じだよ」
「……どのあたりが、同じなの」
「いつでも隣に君がいる」

 すでに瞼で閉じかかった空は、大きな手のひらで塞がれた。残るのは音だけ。キョーヤの声が、いちばんよく聞こえる。

「そうでしょ」
「うん。明日もいっしょに遊ぼうね。そしたら、またこうやって」
「そうだね」

 あくび混じりのそれが、最後だった。約束が嬉しくて、隣りにいられるのが嬉しくて、睡魔に身を任せてもいいかな、と誘惑に負けた。それにどちらかが目を覚ますまで、こうしてくっついていられるから。