シーツの上に寝転ぶと迎えてくれるのは、背中に回る大きな手。
とん、とんとゆったりしたリズムはいつも綿を整えるようにわたしの上で跳ねた。ついついとろけてしまう表情をキョーヤはじっと見ている。少し恥ずかしくても平気なのは、これからすぐに眠たくなるとわかっているから。
「キョーヤがこうしてくれるの、好きなの。ほっとするもん」
「背中が、かい」
「うん。キョーヤは?」
穏やかな腕の中で精いっぱい手を向こうに差し伸べると、気持ちいい肌ざわりの布越しに体温がある。少し硬くて、広くて、わたしとは全然違うつくりをした背の。
「好きだよ。君の手が小さいのがよくわかる」
「えぇ……」
「その手でがんばって包もうとしてくれてるのがかわいい」
胸にうずめた額を上げると、キョーヤの目がふっと細められた。音のない瞬きはゆっくりで心音のよう。しっかりして優しい両手に支えられていると、これから明かりを落としても、真夜中になっても安心していられる。
わたしもそんなふうにできていたらいいな、そう思いながら目を閉じようとしたときだった。
「反対側はどうだい」
聞かれたのは。
「反対?」
眠気に唐突な思考が混じってあべこべに、どちらが上で下なのかわからなくなって。
「うん。みどりのおなか」
「あーっ」
いとも簡単に転がされて、気づけば後ろから抱きしめられている格好。キョーヤは小さく笑いながら、わたしのおなかに両手をそうっと押し当てた。じんわりと熱を伝わせるように。
明日が何曜日だったか思い出せなくなるくらい、わたしの背中にキョーヤのおなかの感触があった。丸いボタンの硬さの奥に、別の――多分、キョーヤの体の硬さ。
わたしとこんなに違うなんて。
「これは」
するりと、片手でパジャマ越しになでられる。綺麗な指先が一瞬引っかかったのはわたしのおへそ。なんてことないくぼみなのに、そのはずなのに、ぴりっとしびれるのに似たものが走った。もし電気に触れたらこんなふうなのかもしれない、なんて思うほどには緊張してぎゅっと目を閉じてしまう。
変な話だった。この手はおおらかで、危ないことなんてあるはずないのに。
「安心するかい」
「ん……っ」
何度も、キョーヤは繰り返して。するするとなでられるごとに、おへそに指が入り込みかけては離れていく。普段誰にも、触られることは当然として見られることだってないところ。そんなふうに気づいてしまった途端、頬に熱が集まった。とっても、いけないことをされているみたい。
けれど、それを口にはできなかった。
「どう。みどり」
キョーヤの声色はこんなに、いつも通りだから。振り返るのもためらうくらいにあわてている自分がなんだかおかしくて変だから。
「くすぐったい、やだ、ん……」
答えたのは本当のこと。でも、本当のことの一割にも満たない。
笑い出してしまうよりずっと恥ずかしいけれど、それが何なのかわからなくてことばにならないまま。大きな手のひらいっぱいに探られると、ほんの少し両脚が震えてしまう。キョーヤにぶつけてしまわないか、なんて心配はすぐに吹き飛んだ。
視線を下ろさなくてもわかる。いつの間にか、もう片方の手がわたしの腰をやんわりと捕らえていることくらい。
キョーヤは全身でわたしを抱きすくめていた。
「……本当に、いや?」
耳のそばに落ちてくる密やかな低い音にやっとのことで頷く。温かい手が好きなのに、これ以上続けられたらどうにかなるなんてあやふやな確信があった。覗いてみたいのに、何が飛び出してくるのかわからなくて足踏みしてしまう暗がりのよう。そこにはわたしの鼓動がせわしなく響いている。
少しだけ怖くて。
「うん」
キョーヤはそれを、わかってくれた。
「みどりはまだ慣れてない。だから驚いたんだ」
ふっと、おなかに埋められていたわずかな圧力が消える。目を開くと、キョーヤの両手がわたしの背後に戻っていくところに出くわした。
それは両肩を包むために。
「これから、何日も続けたらじきに平気になる」
「おなか、またするの……?」
ゆっくりと体を返されて、わたしの目の前に再びキョーヤが現れた。わずかに目を伏せるようにするのは、こちらを観察しているのかも。どこまでがわたしの平静の境界線なのかを。それでも嬉しくなる。
こうして背中を抱き寄せてくれる手の意味がわかるから。
「みどりが僕で安心するところを増やしたい。そのためにね」
ゆったりと髪をなでていく指先がある。
「うん……わたしも。たくさん、優しく触ってほしい……」
緩やかに眠気を誘うリズムで。いつか、おなかに触れる手もこんなふうに受け入れられるような気がしてくる。きっとそうだと、やっぱり嬉しくなってキョーヤの背を抱きしめた。
こうしてくっついていても、ほのかに微笑みながら見つめてくれているのを感じながら。
ランダム単語ガチャ No.1295「安らぐ」
