手作り

 

 天変地異が起きてもおかしくない。袖をまくる姿を見てはじめはそれくらい驚いた。

 けれど今では、背伸びしてその肩から向こうを覗き込むのがとても楽しい時間になっている。

「何」

 わざとわたしにぶつかる方に振り返ろうとするキョーヤの頬と頬がくっつくのも。

「今日は何作ってるのかなって」
「当ててごらん」
「うどん」
「はずれ」

 テーブルに置いてあった小麦粉からの安直な推理は否定され、その瞬間に後ろのオーブンから聞き慣れたメロディーが流れてくる。

「クッキーだ?」
「当たり」
「キョーヤ、最近はクッキー作ってくれるよね。どうして?」
「君の食いつきがいい」
「おさかなみたい……」

 お菓子作りはわたしのほうが先輩だったのに、むしろキョーヤは一度もしたことがなかったのに。ずっと前にわたしといっしょにパンケーキを作ってから、キョーヤはごくまれにお菓子をふるまってくれるようになって。

 面倒だとか、ほかの人間のやることだとか言いそう。そんな思い込みはとっくにどこかへ行ってしまった。ふたりでお皿を並べるキョーヤはどこか楽しげにするから。

「僕も甘いものは嫌いじゃない」
「わたしは大好き」
「片づけは君に押しつけられるしね」
「うっ……やりますとも」

 第一弾が焼き上がったいい香りがする。チョコチップが散らされた、丸くて可愛いクッキーがざらざらと取り出されていくのを眺めていると、ふと差し出される一枚。

「君がここに来るときの足音が好きだよ。食べられると思ってるから弾むんだ」
「そうかな……」

 あまりの耳のよさに恥ずかしくなってしまう。今度からはもう少し落ち着いて歩くことにする。

「だって、キョーヤはいつもわたしに分けてくれるでしょ」
「もちろんそのつもりで作ってる」
「ありがとう! それじゃあ、いただきまーす」

 ふざけてかじりつくと、さくりと軽快な音が跳ねるのが好きだ。

 その先で、優しく目を細めるキョーヤがいるのも。