力試し

十回挑んで、一度も勝てなかった。歯が立たないとはまさにこのこと。

「えっと、本気出していいんだよ……?」
「本気だよー……」
「えぇ……」

十一回目もあっさり捌かれ、地上波初放送アニメを待つ暇潰しの腕相撲大会はこうして幕を閉じた。普段の筋トレの成果を見てもらおうと張り切っていたのに想定外が過ぎる。

机の向こう側で、順平くんは未だに信じられないものを見る目でわたしの指を両手で包んで眺めた。

「うーん、藍さんは壊滅的な筋力不足ってわけじゃなさそうなのに」

不思議そうににぎにぎと手のひらから腕にかけてを押され続けるとツボマッサージのよう。思わずくたりと肩の力を抜きながら、わたしを真剣に観察する順平くんを見つめた。

「あ、痛かった?」
「ううん、気持ちいいくらい……順平くんって意外と力強いんだね」
「そうかな」

すとんと、唐突に声が落ちた。文字通りの落ち込むという体ではなく、かといって気分を害した風でもなく。順平くんはこういう機微を悟らせないことがとても上手い。長いかどうかはともかくとして、それなりの時間そばにいるわたしに対してさえ。

――夕方の空気は、こんなにもしんと静まり返っていただろうか。

「ね、藍さん。あなたの手首って細いね」

順平くんの指が輪を作り、わたしの手首に回る。その表情はいつもの穏やかな笑みではなかった。少し苦いものが混じる、年下の男の子がするには複雑すぎるもの。

「細くて、非力だよ。多分振りほどけないんじゃないかな……僕なんかの手なのに」

そう言われたところで試す気にはなれなかった。きっとその通りだから。少し冷たい指が腕の内側を掠めるたびに淡い痺れが走る。それはそのまま、順平くんの危惧なのかもしれない。

「だからね、僕以外の誰かにこうやって簡単に触れられたらだめだよ」

うん、と何とも間の抜けた返事を向けるしかなかった。知らなさすぎるわたしと比べてこの子は知りすぎている。

「でもいつか……どんなときでもあなたを守れるくらいに強くなるから」

根本的なことを忘れていた。順平くんは呪術師だ。そうなることを決めた人間に、ただの人間でしかないわたしが勝てるわけがない。

――とはいえ彼がいちばんに主張したいのはそこではなかったようで。

「藍さんは危機感が薄すぎるよ! いくら高専の敷地内でもこれはない、断言できる」
「えぇ……」
「とにかく、僕はOKその他はNG。それだけ覚えていてくれたらいいから」

いっそ清々しいほど傲慢なもの言いが、今は嬉しかった。わたしを助けてくれる手を誰よりも近くで支えたい。ことはシンプルだ。

そう気づかせてくれた彼は、しばらく離してくれなかった。それも、結構嬉しかったりする。

ランダム単語ガチャ No.4485「力試し」