雲雀

告白

 嘘、と、小さくひとりごとがこぼれるのを止められない。思わず座り込むと、記憶の中より随分背の高いキョーヤくんも隣で三角座りになった。「夢だと思うのかい」「夢だと思いたいよ」「そこまで嫌いだったかな」「嫌いだし、苦手。こんなにいきなりなんだも…

君じゃないと

 どこを探しても見つからない、と生徒たちの困惑の声が遠く聞こえる。もうすぐ委員会が始まる時間だった。今、風紀委員ひとり欠けたところであの場には草壁が向かっているはずだ。ボイコットするつもりはないのだからわざわざ捜索隊を組まなくてもいいものを…

危機感持って

 真っ青な視界に、尾びれが揺れる影がちらつく。ガラスに隔たれた向こう側ではたくさんの魚が悠々と泳いでいた。控えめな照明がそれを際立たせる。「綺麗だね」「そうだね」 抑えた声、お互いにほとんど上の空、繋いでいる手はそのまま。何の不幸かあまりに…

口紅

 どっちも必要ない。キョーヤの感想はそのひとことだった。「それだけ?」「それだけ」 さっさと手元の書類に視線を戻してしまうのがさらに「話はおしまい」感を醸し出す。少しだけがっかりして、手のひらに収まるサイズの小さな口紅ふたつを見下ろした。淡…

未来

 軽やかな足音に顔を上げると、何やら企んだ顔がにこにことしながらこちらを見下ろしていた。やや身を乗り出しているのが、いかにもという感を抑えきれていない。「見て見て、これは好きの気持ちが三百倍になる魔法のステッキです」 暇を持て余した暇人の暇…

お昼寝

「あと少しで終わるから待ってなよ」 ペン先で示され大人しくソファーに収まって数分。カーテン越しに和やかな昼下がりの光は眠気を誘って止まない。上靴を脱いでくつろいでいたところからほんの少し、ちょっと目を閉じるだけとだんだん誘惑に負け。背もたれ…

性癖ゲームブック

★はじめに★この章は選択肢リンクを選んで先のページを読み進めるタイプです。次へ   #0 秋も深い夜、ふたりでこたつに入ってみかんを食べるのはもはや恒例行事と化し。こんな調子でテレビもラジオもつまらない年末年始まで過ごせ…

こたつ

 冷たい部屋の中でおかえり、と振り返る彼女は制服のまま両手を擦り合わせている。こたつに入っているのに寒そうな様子は彼女も帰ってきたばかりだとうかがわせた。 あと数時間で訪れる新年を祝う番組が、テレビの中で控えめな音量のまま続く。庭に面した障…

手紙

 随分と情けない文面を用意できたものだと自嘲するには遅く、預けた封筒は昨晩投函された。 長い期間の入院になること、面会謝絶となること、電子機器は持ち込めないこと。手術については――一切を省いた。彼女が知るべきことではない。 真っ白なベッドに…

指先

 あった、とひとこと落ちてくる。見上げると棚に向かってキョーヤの指が伸べられていた。図書室の隅をくまなく探していた足がようやく止まり。「少し前から探してたんだ」「どんなお話なの?」「猫が主人のために頑張るらしい」「へぇ、可愛い」 覗き込んだ…

素直じゃない

 可愛いね、と撫でていたヒバードを横からかっ攫われた。「時間切れだよ」 かっこいいよね、と拝借していた学ランを剥がれた。「僕の方が似合う」 おいしそう、と食べようとしたおにぎりを先にかじられた。「悪くないね」 ひと口がでかい。 これら全て三…