夕焼け
帰って来るひと、逆に帰って行くひと、夕方の駅は帰宅ラッシュでそこそこ雑踏している。そんな中でも、横合いからわたしを呼ぶ声だけははっきりとわかった。 「カクテルパーティー効果だね。騒がしい場所でも自分に関わる内容だけは聞き分けられる」「へー…
RE!ワンライ:雲雀雲雀
傷
刺すような冷気が錯覚とわかっていても一瞬気を取られる。頁の端が指の腹を深く裂いたのを彼女は目の当たりにしていた。大慌てで鞄を探り始めるのが他人事のように映る。「待ってて、絆創膏……」「怪我したのは君じゃないでしょ」「痛いってわかるもん」 …
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いっしょに帰ろう
通学路の途中に建てられた掲示板は所々が錆び、赤い下地が覗いている。そんな有様の中、新しく貼られた広報は白く浮いたように目立った。日の落ちた下校時間というのもあるかもしれないけれど。「お祭り? こんな時期にあったっけ」 並盛神社に何とかとい…
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彼シャツ
「とても寒くなった、ので何か着るもの貸してくださいな」 満面の笑みに向かって手元にあったワイシャツを投げた。「強肩だ」「そんな薄着で出かけてくるから悪い」「悪いのは突風だもん」 むくれる彼女はまたくしゃみをする。ただでさえ季節の変わり目で気…
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譲れない
彼女は普通に「可愛い」と口にする。それは野良猫を見たとき、町で子どもとすれ違ったときと枚挙にいとまがなかった。奇妙なことにその並びには僕も加わるらしい。「初めてキョーヤに言ったときヘッドロックされたっけ」「君のそれが褒めことばだって知らな…
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意地悪
「名作だって雑誌に書いてあったから」 そんな理由で彼女が借りてきたDVDをこの家に持ち込む理由はひとつしかなかった。オープニングから数え始めて十度目の悲鳴が喉の奥で震えるのを隣で聞く。強張った表情でそれでも目をそらさないのは使命感からだろう…
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ねえ
呼びかけに応えて彼女が振り向くときはいつも嬉しそうに唇が笑んでいる。その理由を問われたときの反応すら。「キョーヤが呼んでくれるの好きだもん」「君のことは毎日呼んでるのに」「毎日嬉しい瞬間があるってことだよ」 小走りに数歩先へ行く足音は軽く…
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糸電話
苛立ちでもなく困惑でもないこの何とも言い難い感情にいちばん近いのは呆れだろうか。施錠までして閉め切られた応接室、そのドアから伸びるのは凧糸がつけられた紙コップ。窓の桟に辛うじて引っかかるそれを手に取ったタイミングを見計らったのだろう、これ…
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やさしい嘘
おつかいと称した厄介払いに気づくことなく、彼女は出かけていった。 ***「キョーヤのおうちの場所わからないよ」「ついていけばいいよ」 指さした先、胸を張るようにひとつ鳴く小鳥が応接室の窓から飛び立っていくのを慌てて追いかけていく足音は軽い…
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わがまま
草壁先輩が声を張り上げるのが後ろに遠ざかっていく。あれは明らかに救いの手だったというのにわたしは振り払った。こうして走れば確実に感づかれ、歩いていては意味がない。どう転んでも悪いことにしかならない状況が焦りを加速させた。階段を踏み外しそ…
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僕を見て
応接室が静寂を保つのは二時間が限度だった。「先生のお手伝いをしたの。ノートをたくさん運んだよ」「へぇ」「窓拭きって大変なんだねぇ。腕が疲れちゃった」「そう」「部活の見学に行ってきたよ。何かね、すごかった」「ふぅん」 頼んでもいない話題を毎…
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相合傘
歩きにくい、狭い、はみ出る、肩が濡れる。おまけに背の低い君が傘をさしたら天井も低くなる。メリットの何倍もあるデメリットを説いたところで豆腐にかすがい、糠に釘。「傘持ってくるの忘れる方が悪いんだよ」 もっともらしいことをのたまったのは、頬を…
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