ここまでのあらすじ
悪モブたちにさらわれたみどり。自力で脱出しようとしたけど絶望的にこんがらがった。もちろん雲雀が助けに来てくれた。
あらすじおわり
「……誰にされたの、それ」
やけに人数の集まっていた保健室をあたったのは正しかった。目の前では、ひとまとめになった両手を天井に吊られたみどりがベッドにひざ立ちになっている。情けなく下がった眉がこちらを見るなりぱっと元通りになるあたり、外傷はなさそうだ。髪は若干乱れているが。肩の力が抜け、そこでようやく頭に血が昇っていたのを自覚する。ドアを壊さなかったのが不思議なほどに。
「半分わたし……隠し通路とかないかなって、上の方探してたらこんなふうになっちゃった」
「そんなもの学校にはない」
枕がタイルの床に落ちているのは多分、ベッドで飛んだり跳ねたりしたせいだろう。念のためにと後ろ手でドアの鍵を閉めて歩み寄ると、彼女の手首に白いガーゼタオルがめちゃくちゃに巻きつけられているのがわかった。その上に複雑に絡みつくのは、天井近くに配されていた部屋の装飾ワイヤーや機材のケーブル。どう暴れたらこうなるのか。ともあれ、そこまで元気があり余っているなら本当に閉じ込められただけらしい。タオルで縛られたのは、あの集団の誰かの仕業だけど。
「キョーヤ、ありがとう」
「何ともないのかい」
「平気だよ。キョーヤ来てくれたもん」
「うん。待ってて」
目を細めるみどりの髪をなでながら、さて雑然とした線のどの部分を切断するかと検分のためにベッドに上がる。偶然か否か彼女の上履きも床に散乱していたからそれにならいつつ。その途中でふと視線を下ろした。ひょこりと未だ跳ねる髪を真上からながめる形。
吊られて、抜け出せないままの。
――少しだけ距離を取り、ついでに全身を観察するためにやや正座の体勢になってみる。首を傾げながらも大人しくするみどりと向き合い、そして。
「……よかった」
ため息がこぼれる。ことは想定よりも重大だったらしい。
この姿を彼らが見ることがなかったのは幸運ともいえるかもしれない。もともと非力な女の子が、よりにもよってみどりが、拘束されてほとんど何の抵抗もできない状況。前後左右どこからの攻撃――その他もろもろに対して。
「キョーヤ?」
こうして両手で彼女の頬を軽く挟んでも、目を見開く以外はやはり何も。
「……無事でよかった、ってことだよ。本当にどこも痛くないんだね」
笑顔で大きく頷くのは、本当に本当のときの返事。だからこそたちが悪かった。
身を乗り出して柔い背中を抱き寄せるのに合わせて、皺が寄ってぐちゃぐちゃのシーツが擦れる音がついてくる。互いにひざ立ちになるさまは戯れのようだが、そう考えているのは笑って受け入れているみどりだけ。
「ひゃ」
誰に何をされてもどうにもできない、そんな自身をだんだんと飲み込み始める彼女だけだ。
「え、え、キョーヤ」
「静かに」
頬にかかる髪を再度払ってやると、びっくりしてまた声を上げる。震えるひざが可愛くて、その上で揺れるスカートの裾は音もなくみどりの動揺を知らしめてきた。喜びとはまた別の意味で赤くなる耳を指でつつくと、やはり熱い。
潤んでいく目がぞくぞくとたまらなく背筋を刺し貫いて。
「……廊下で伸びてる奴らが起きるかもしれない」
伸びているわけだからその心配はほとんどないが。そうとは気づかずあわててきゅっと目を閉じるいじらしい仕草をじっくり見つめてから、にじり寄るように彼女の背後に回った。
これが僕以外の何者かだったらどうなっていたことやら。そんな、ないに等しい可能性のことは置いておくとして、弱々しくもがき始める手首を拘束の上からそっと片手で包む。
「暴れないで。あまり擦れると傷になる」
「でも、でもこんなの」
「みどり」
お腹に腕を回し、ブラウス越しの背中に密着しただけで酷く熱いのが伝わってくる。よほど緊張しているのか――恥ずかしいのか。
「かわいい」
知らず、唇が笑みに開いていた。どちらでも、僕にとっては同じことだったから。
「君のそういう姿を見てると、ささくれ立った神経が癒される気がするよ」
「えぇ……」
「この続きは僕の家で、と思ったけど」
続いちゃうの? と、戸惑いの中に期待が見え隠れする震えた声が転げ落ちてくる。拾って舌の上に乗せたらとても甘酸っぱそうな。
「もう少しだけいじめさせて」
彼女の災難に乗じて、時間の許すまで味わうことにした。とりあえずは、みどりが音を上げるところまで。
ランダム単語ガチャ No.3668「特効薬」
