手袋

 止めろというのに試した彼女は声を上げて手を引っ込めた。曇り空の下を歩く憂鬱を吹き飛ばすような明るいそれは驚きながらころりと転がる。

「氷みたい、雪みたい」
「痛いくらいだ」
「だからポケットに手、入れてたんだ」

 キョーヤにしてはお行儀が……とひとりで納得しつつ彼女は僕の手にまた触れる。それどころか両手で包んで軽く揉みほぐすようにした。この季節にはありえないほどの体温が痺れるように伝う。

「君は平気そうだね。とても温かい」
「キョーヤに分けてあげられるくらいあるかも」
「それなら、家に着くまでお願いするよ」

 彼女に右手を好きにさせながら歩くのは今日に限った話ではないし手を繋いで下校するのはいつものことだ。だからこそ彼女は僕の異変に気づいたらしい。ほんの微かに息が白くなるこんな日だと、とくに。

「そろそろキョーヤは手袋しないと。もっと寒くなるもん」

 そのことばで、僕の小指を緩く握った柔らかい手のひらが手袋をはめるのを想像した。横目に眺めた彼女は明らかに機嫌がよく、僕の手をまだ楽しそうにいじっている。

 笑って見上げてくれる視線を受け止めるだけで生まれる温もりは、しかしそれだけでは足りなかった。

 彼女が贈ってくれるもの全てがほしい。

「……いや。まだしばらくはいらない」
「無理しない方がいいよー」

 これが強がりではないことを、彼女はいつか知るのかもしれない。それでもこの手が離れることはないだろう。手袋が欠かせないほどの季節になっても。