ミルクだシロップだ、究極的にはオプションなしだという論争が鎮まったのは、にこやかなウェイトレスがこのテーブルを去ってからだった。
残される、注文通りのアイスティーふたつ。
そして唯一ついてきたのは、グラスに挟まる輪切りのレモン。
「どうして……」
「ここがフルーツパーラーだからかもな……」
ふたつ隣のテーブルでは、スーツの女性が三人揃ってマンゴープリンを楽しんでいる。明るい笑い声が満ちる甘酸っぱい店内に、本来この身は異分子だと思う。そうして何年も窓の外から眺めるだけだったこの場所の知識だけは豊富で。とはいえ彼女が引っ張り込んでくれたのだから、それは昨日までの話。
「どうしようディーノ、わたしレモンティー飲んだことないよ」
「まぁ諸説あるけど、浮かせてかき混ぜて、そのままにするのがいちばん楽だな」
実演してみせると、ストローの先を見つめていた目が丸く、好奇心に見開かれる。かろん、と鳴る氷の音とともに浮かぶのはふたつ目の「どうして」。
「紅茶の色が変わったみたい」
「ホットだともっとよくわかるぞ。うまくレモンが溶け出したんだな」
「そうなんだ。それじゃあ、今度来るときはホットを飲もうね」
「また連れて来てくれるのか?」
「何回でも!」
頼もしく宣言して、彼女は勇んでレモンをグラスへ落とした。
「……そうだな。お前が初めて行くところにはオレも着いていきたい」
これから何度でも、あの綺麗に輝く目を見られるのだろう。彼女には知らないことが山ほどある。ひとつ学ぶごとに喜ぶのを誰より近くで見ていたい。そうできるのは大人の醍醐味でもある。
叶うなら、その機会は全部もらってしまいたいほどだ。
「いや、逆だ。オレが連れてくよ。たくさん遊ぼうな」
これ以上ないほどの笑顔で頷いてくれることこそが、今日いちばんの幸福かもしれない。ストローをひと口含んだ後の「おいしいね」も、同じくらい可愛らしいものだけれど。
「何だか、ディーノってレモンに似てるね。いっしょにいると元気が出てくるの」
「そうか? 見た目かな」
言われて、まじまじと薄黄の円を眺めた。鮮やかな皮の色は室内でも眩しい。
「太陽みたいに、きらきらでとっても綺麗」
この瞬間――とろける笑みが、頭痛の種にも通じると思い知らされた。
「……それ他の奴には言ったらだめだからな」
「言わないよー。でも、どうして?」
「とびっきりの口説き文句だからだよ」
きょとんとする鼻先をつっついていじめてやりたくなる。可愛くて、憎らしい女の子は自分が何を口走ったのか自覚がないらしい。それがいちばん手に負えないというのに!
「近いうち、お前には大人の苦味っていうのも教えないとな」
檸檬は甘酸っぱいだけじゃない。そう知ることに遅いも早いもないだろう。目の前の大人の邪な考えは、次に運ばれてきたショートケーキに遮られる。
