グラウンドの真ん中で女子生徒が派手に転んだ。傷口を洗うためだろうか水道へ向かう足取りはふらつき、友人らしいもうひとりの女子があわててついてくる。窓からながめるこちらとの距離が縮まってくると彼女がひどく泣いていることに気づいた。
あまり出血はしていないが膝に広がる傷は大きい。そこまで痛かったのだろうか、涙を何度か手の甲でぬぐいながら歩く姿はにわかには信じられない。自分がそんなことになった覚えがないからだ。
***
その生徒は今目の前できょとんと目を瞬かせて。
「なに」
「ん、キョーヤって」
ゆるく首を振って――隠しきれない笑みとともに、みどりはつないだ手を見下ろした。門から玄関に迎え入れるだけの短い間にもそうしなければいけない理由はその冷たさにある。彼女の白い指は、昨日とは打って変わって氷のようだ。そんな事実がちくりと胸を刺す。
「いつも優しく触ってくれて嬉しいなって思ったの」
「みどりは痛みの閾値が低いから」
「生き血?」
「……君はとっても弱いんだってこと」
とたんに不満げにふくれる頬をつつきつつ、手は離さない。この寒さに、彼女のなめらかな指先はとても痛むだろうと思ったからだ。冷気はときに鋭い切っ先になる。
「こんなに冷たくなってる。次からは手袋つけておいで」
「キョーヤがあっためてくれるから大丈夫」
「だめ」
「えぇ」
間違っても握りつぶさないようにそうっと包み込んだ。
「君が泣くから」
何の話かと不思議がるのを意図して聞き流し手を引く。家じゅうの柔らかいものありったけでみどりを包んでやれば、いつもの温かな彼女になるだろう。
ランダム単語ガチャ No.5002「握力」
