ペパーミント

 

 いつもいっしょに歩く通りを、ひとつ右へ曲がるとすぐにアイスクリームのお店がある。すぐそばの公園にはベンチが置いてあって、少しくつろぐにはちょうどいいところ。

 そんな話に興味を引かれたのかキョーヤは案内を任せてくれた。そして今、並んでベンチに落ち着くわたしたちの手にはコーンが、その上には丸くて小さなアイスが収まっている。キョーヤはチョコチップが散らばるコーヒー、わたしはペパーミントの飴がアクセントのバニラ。

「いただきまーす」

 はりきるわたしのそれが号令のよう。いっしょのタイミングで口に含んだアイスは甘くて冷たくて、舌の上でふわりと柔らかく溶けていく。昼下がりの陽気にうってつけの心地よさを伝えたくてそちらを向くと、キョーヤもわたしを見つめていた。とろけそうに、ちょっとだけ目を細めて。

 わたしと同じ気持ちだと、その表情だけでわかることが胸を張りたくなるほど嬉しくて、くすぐったい。

「なかなかいい」
「でしょ。前に友だちと来たんだよ、あんまりおいしかったからキョーヤとも来たくって」
「僕もみどりとなら、また」

 頷いたキョーヤは、ふと視線をわずかに落とした。

「みどり」

 そうして微笑とともに指し示されるのはわたしの口もと。

「唇、端についてる」
「えぇ、ほんと?」
「そんなに夢中だったの」
「恥ずかしいー」

 かといってわたしを見つめるキョーヤの手前、家でするようにぺろりと舐めとるのも恥ずかしい。ハンカチかティッシュを探そうと鞄を手繰り寄せる、そんな隙を。

「こっち向いて」

 長くなってきた影がふらりと覆った。その中で伸びる腕がわたしの背を抱き寄せて。

「え」

 目を見開く間もなく。

 小さな、濡れた音と温度が唇をたどっていった。

「……うん」

 かたん、と。

 なにごともなかったかのようにキョーヤは腰を落ち着け直した。

「少しミントが強いかな。バニラとは合うけど」

 そうして自分のアイスに構い始める、その流れのなんて鮮やかなこと。わたしは文字どおり手も足も出なかったのに。一気に熱くなる頬をどうにかしたくても片手がふさがっている。

「わたし、わたしもチョコチップの食べたい!」

 唐突なキスが嬉しいのを今すぐ半分こにしなければ熱で倒れてしまいそう、気づけばその一心で言い募っていた。

「キョーヤもほっぺたとかにアイスつけて」
「僕はそんなヘマはしないよ」
「えぇ……」
「普通に食べたらいい。それとも」

 差し出される、大きなひと口のおかげでかなり減っているコーヒー色。

 同じくして、弧を描く自身の唇に押し当てられるキョーヤの指先。

「こっちかい。みどりはどっちがいいの」

 ――今日、いちばん人気だというペパーミントを選んでいてよかったかもしれない。爽やかで冷たい香りが熱暴走を抑えてくれそうで。

 この、きれいでいたずらっぽくて、どこかいけない毒のような。とにかく、かわいいだけじゃない笑顔を向けられたら迷いなく「どっちも」と答えてしまっていたはずだから。そしてキョーヤは、わたしがどう血迷っても絶対に受け入れてくれるから。

 助けを求める気分で、ついでに場をつなぎたくてミントにかじりつく。手元がぶれてまたあらぬところにアイスがくっついてしまったのをキョーヤが見逃すはずはなくて。

 

ランダム単語ガチャ No.7082「ペパーミント」