自信ありげにヘアピンを構えていた手が降ろされる。困って首を傾げ、彼女は体を離すと元の椅子に収まった。それまで眠気を誘うように穏やかな手つきで髪をすいてくれていた指も、そちらへ。
ことの発端はその背にあるテーブルの、そのまた上に。
「これだと可愛くなっちゃう」
「オレは可愛くても大歓迎だぞ、お前がしてくれるんだから」
「んー、今日はディーノをかっこよくしてあげたい! 男のひとって髪型変えるときはどうするの?」
友だちに借りたという雑誌は、日本で人気の若手俳優のページが開かれている。ああいうのが好きなのかと、彼のセットを真似て片手を前髪に持っていった。
「いろいろあるけど、ここでは整髪料って呼ぶんだったか? クリームみたいなので固めるんだ。こうやって」
ぐっと前髪を後ろに流すと、フォーマルな装いをしている彼にぐっと近づいたはずだ。
けれど彼女はなぜだかぱっと顔をそらしてしまう。一気に真っ赤になって。
「ん? どーした?」
「だってディーノ、あんまりかっこいいんだもん」
「照れるな照れるな」
「王子さまみたい……」
ストレートに褒めてくれるのが嬉しくていつものように頭を撫でても、彼女は今度は両手で頬を隠し始める。これではますますこちらを向いてくれなくなる気がして。
「わかったよ。今日はここまでなー」
前髪を元に戻そうとして適当に撫でつけると、視界の上の方で毛先がぼさぼさになっているのがわかる。そんな小さな不快感は、そっぽを向いていた彼女がそろそろとこちらを見てくれるのがわかればどこかへ行ってしまった。
「オレはお前に撫でられるのも好きなんだ。やっぱりそのピン、つけてほしい」
どこかほっとしたようにまた近くに来てくれると、こちらはもっと安心する。
「めいっぱい可愛くしてくれよな」
笑顔を咲かせて頷く彼女をこうして抱きしめられる距離にいられる。彼女の王子さまでいることよりも、ほんの少し大切なことだ。
