どうあがいても逃げられないゲームブック

★はじめに★

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#0

 ここまでのあらすじ

 某ガチャでエロゲ産としか思えない魔法を手に入れてしまったみどり! しかも遊びに来ていた先のディーノにうっかりぶつけてしまった!

 あらすじおわり

【異性を自分に惚れさせる魔法】
【発情させる魔法】
【性的興奮を高める魔法】
【性感感度を10倍にする魔法】
【絶倫になる魔法】

「こんなのしかないよ!」

 中には意味が全くわからないものも混ざっている。ディーノに説明したとたん顔色が悪くなってしまったのを見ると、とてもいい魔法とは思えない。毒とか呪いとか自滅系の魔法だったらどうしよう。もしこのスイートルームが吹き飛ぶほどの大変なものだったら――お詫びのしようもない。

「どうしようどうしよう、大丈夫? 痛くない?」
「安心しろって。何ともないぞー? むしろ血行がよくなったような気がす」

 元気にぐるぐると肩を回していたディーノはだんだんと口調が沈んでいく。ついにぱたりとベッドに座り込んでしまったのはどう見ても大丈夫ではなくて。

「んー……頭がぼんやりしてきたかもしれない」

 とろりと目が潤んでいる。ことばの印象とは違って泣いてしまうほど辛いのかも。額に手のひらを押し当ててみるとやっぱり熱かった。くすぐったそうに肩を震わせるということはもう体調不良で確定するべきだ。

「フロントで氷もらってくる! あ、お薬持ってる? そうだコップ探さないと……」
「いや、後で持ってきてもらう……それよりみどり、悪いけど今日はあいつらに送らせるよ。ロビーで待っててくれ」

 大きなドアを指さして、ディーノは仰向けに倒れ込んでしまった。ベッドがほとんど埋まってしまう文字通りの大の字姿は脱力しきっていて、とてもではないけど放っておけない。

「うん、わかった……でも、みんな外にいるんでしょ? 誰か戻ってくるまでここにいるよ」
「……正直言うと、変な気分なんだ」

 ぎゅっと閉じてしまう目に力が入っている。ちょうどこれは、わたしと目が合うのを避けたタイミング。

「多分風邪じゃない。うまく説明できないけど……とにかく、わかるよな」

 弱々しくて、けれど言い聞かせるように強いお願いだった。

「でも……」

 カーテンの向こうからは夕方のオレンジ色が差し込み始めている。時計を見ると、もうすぐ午後五時に差しかかるころだった。ディーノがいつも家まで送ってくれる時間。

 言われたとおり、離れたほうがいいのかな……?

わたし帰るね! お大事に!

心配だからもうちょっといる

#わたし帰るね! お大事に!

 熟考の末にベッドの横から立ち上がったわたしの腕を何かが引っ張った。

「……忘れてた。お前はよく考える子だったな」

 大きな手は熱くて、緩く掴まれている手首に体温が伝ってくる。ディーノの声は掠れているように聞こえた。だからこそ低く、動物が唸るような力がある。

 背筋をなぞるのは、瞬間的な危機感だった。

「もっと早く力ずくで追い出せばよかった」

 らしくないもの言い。

 思わず後ずさろうとするのを、ディーノは許してくれなかった。

「みどり」

にげられない!

#心配だからもうちょっといる

「……みどり」

 困ったように眉を下げるディーノはゆっくりと起き上がり、わたしの両肩にそうっと手を置いた。

「気持ちは嬉しいけど、わかってくれ……いや」

 ゆるゆると首を振り熱を払うような仕草。

 そんな風に見えたのは間違いだったらしい。

「いいか、今すぐ出ていくんだ。でないと」
「え……」

 思わず声を上げてしまうのをディーノは黙って見つめていた。

 この場から動けないほどしっかりと肩を掴む、突如ことばと真逆を行き始めた手をそのままに。

まわりこまれてしまった!

#みどりはにげられない!

 不意に引っ張られて踏みとどまることもできなかった。前につんのめる体を抱きとめてくれる腕はディーノのもので、それなのにひやりとした危機感があるのはどうしてだろう。

 それはきっと、一瞬とはいえ痛いほどの無言が横たわったから。

「えっと、ディーノ……?」

「ごめんな」

 遮る謝罪は性急で,ぞっとするほど熱を帯びたものだった。

「もうただでは帰せねー」

 わたしをお腹に乗せるディーノはそのことばを最後に腹筋の要領で一気に起き上がると、あっさりと互いの体勢を覆してしまった。

 ベッドに倒されて、目の前にはディーノと天井がある。

 真剣を通り越して射抜くような視線が降りる。

 優しいのに、温かいだけではない温度が。

 ――思考停止から抜け出せたのは、後ろでまとめていた髪をどこか性急に解かれた瞬間だった。骨張った指がわたしの髪留めを避けていくのが辛うじて視界に入って。

「え? え? ええっ?」
「あのな、みどり 。これからのことは全部オレが悪いんだ。お前はなんにも悪くない。だから」
「ま」

 待って、と制止することはできなかった。

 ほとんど条件反射で胸元に構えた両手は大きな手がひとまとめに包んで。

「可愛いな」

 ――低い声がうわごとのように囁くのを、呆然と聞いた。

 額に唇が触れたのはそのすぐ後のこと。

「ディーノ」
「可愛い」

 ふわりと、笑顔が浮かんだ。にこにこ可愛いいつものディーノがオレンジジュースなら、このディーノは飲んだこともない赤ワインだ。おいしいフルーツから生まれたとわかっているのに、飲み下してはいけないお酒。

 その中には、わたしには飲んではいけないものが入っている。

「みどりは小さいな。手も身長も」

 今のディーノにはそれと同じ気配があった。確かに笑っているのに、見つめられるとくらくらする。普通じゃないとわかる。

 どれを使ってしまったのかは置いておいて、やっぱりあの魔法は全部よくないものだったんだ。

「ごめんねわたしのガチャ運が悪いせいで……!」
「ガチャ? 何のことかわからないけど」

 唐突に頬を撫でていく手のひらの感覚がくすぐったくて、熱くて、思わず悲鳴をあげてしまいそうになるのを飲み込んだ。きゅっと唇を結ぶわたしを、喉の奥で笑いながらディーノが見下ろしている。

 全部見られている。そんな事実が酷くぞくぞくして。

「今はオレだけ考えててくれよ」

 今度は頬に、ゆったりとしたキスが降りる。耳元にぽそぽそと注がれる声には意地悪な笑みが含まれていた。からかっているだけだと思いたいのに,このままずうっと聞いていたらどうにかなりそうな甘い響き。

 どどどどどどうしよう……? ほとんど混乱しながらとっさに叫んだことばは、お腹に力が入らないせいで頼りなく床に落ちた。

助けてー!

こんなのやだー!

#助けてー!

「誰もここに入れるわけないだろ?」

 ディーノの抗議はともかく、うつ伏せに寝返りを打つようにして強引に視線を引き剥がした。あのままだったらきっと体が麻痺したように動かなかったに違いない。ディーノこそ、ものすごい魔法の使い手だった。その魔法を解くにはこれしかない。

 部屋のすぐ外にはまだ誰もいない。ディーノがそうしたから。けれど何人かが時間をおいて交代で詰めることは知っていた。全力で呼びかければ誰かが気づいてくれるはず。

「だ……」

 両腕でかろうじて上体を起こして、そして――そんな見え透いた考えが通用することもなく。

「だめだめ。大人しくしてろ」

 すぐさま、後ろから回された手のひらで口元を塞がれていた。無理矢理叫ぼうとしたらうっかり歯を立ててしまいそう。そんなことよりこの非常事態をなんとかしないと! ……と思い切ることはついにできなかった。ディーノが怪我なんて絶対に嫌だ。

「いい子だ」

 黙り込むしかないわたしの上から嬉しそうな響きが降ってくるのと同時に、真横でベッドのスプリングが軋んだ。ディーノは完全に覆い被さっている。獲物を捕まえる寸前の猫みたい。小さな標的をどうにでもできてしまうポジション。

「苦しくないよな? ……逃すわけない。こんなチャンス」

 ブラウス越しにお腹に回された手が、信じられないくらい熱いのがわかる。そのまま抱きしめられると背中がディーノと密着した。今わたしたちがどんなことになっているか窺い知ることはできない。知らなくてよかったかもしれない。

 こんな風にされるとこんなにどきどきするなんて、まるでいけないことのようで。

「可愛いな。みどり」

 何かを言いかけるディーノのことばが耳元を掠めていく。微かに触れたのが唇だということに気づいてしまえば、パニックになりかけるのはすぐだった。もがいても状況が何も変わらないことが混乱に拍車をかけて。

「んん」
「可愛い。その程度じゃ離れられないぞ? そんなことさせねーけどな」

 でたらめな抵抗に意味なんてないと思い知らされて体の力が抜けた気がした。比喩でもなんでもなく、わたしは獲物なんだとも。

 お腹から体をたどる手の意図をはっきりわかりたくなくて、それでいて、触れてくれるのが嬉しいと思ういつもの感覚も残っている。どうしよう、どうしよう……頭の中をめぐるのはそればかり。

「ん……っ」
「柔らかいんだな。あ、薄いところもある……なんというか」

 そうだな、と継ぎながらその指はわたしの肋骨をなぞっていく。そんなはずはないのに、体の内側に潜られたような錯覚がわたしをかき乱した。耳の縁に唇で触れる悪戯は忍び笑いが滲んで。

「女の子って感じがする」

 その瞬間、根拠がわからないからこその震えが両脚に走った。

 ディーノはいつもわたしに優しい。たくさん可愛がってくれる。それこそ、お姫さまだって言ってくれたことは数知れない。

 反対に、今のような――女の子、だなんてシンプルな立ち位置に置かれたことはなかった。にっこり笑ってくれて、抱きしめてくれて、守ってくれるお兄さんの前では不本意なことにわたしは妹同然だった。いつかディーノに釣り合うレディーになるのだと背伸びしてばかりの。

 だからこうして、どうしたって勝てなくて、背だって追い越せることはなくて、手も足もずっと大きいディーノをシンプルに男のひとだとはっきり意識させられてしまう。

 どうして不本意だなんて思っていたんだろう。

 ディーノとわたしがこんなに違うなんて、違うことを思い知るほどに胸が疼くなんて、知らなかったからかもしれない。

「鼓動が早いな。たくさん触れられたからか?」

 不意に濃く差した影に驚く余裕もなかった。頬に頬を寄せられていちばんに感じたのは熱だった。自分が熱いのかそれともディーノが? すぐには判断できないほど。

「みどり……?」

 声を塞がれていた手も抱かれていた腕も緩み、そこでようやくディーノを見上げることができた。

 ここから出ていくことより先に、とっさに口をつくことばがある。きっと、わたしの本心。

 ――息を呑む音がした、気がする。

止めちゃうの……?

もっと

#こんなのやだー!

「やだって……」
「えい」

 少し離れた距離を見逃さずに、勢いをつけてぺちんとその両頬を平手で挟んだ。

「こんなのやだから、もっと優しいのがいい……」

 この状況はどきどきするけど、どちらかというと好きだけど、頭を撫でてくれたりたくさん抱きしめてくれるいつものディーノの方がよかった。ディーノは体が大きいからこうして下にいるとずっと影が差してしまう。表情が少しでもよく見えなくなるのは不安なことだなんて、当然のことをここで改めて思い知らされる。

「どいてどいて」

 迫っていた胸板をぐいぐいと押すとすぐに横に避けてくれた。一気に視界が開けてほっとして、ベッドにぺたんと座り込むディーノを改めて見つめてみる。表情がぽうっとしているけれど、何かを考えこんでいるかのよう。

 ほんの少し、苛立ったり怒っているのかと思った。わたしがわけのわからないトラブルを持ってきたから。でもよくよく考えてみたらディーノはそんなことをするひとじゃない。

 だから向けられたその笑顔をまっすぐ見ることができた。

「じゃあこうしようぜ。こっち、来てくれるか?」

「うん……」

 広げられる両腕の中にそっと近づくと、抱き寄せられて一息に抱き上げられた。そのまま降ろされたのはディーノの膝の上。見上げると同時に大きな手がぽんぽんと肩を叩く。

「これならたくさんキスできるな」

 笑みを含む視線がそらせないのは、柔らかく刺さっているから。そんな気はないけど、もし逃げようとしたらすぐに引き戻されてしまうと思わせるものだった。

 今だって、しっかりとした片腕が背中を抱いて離さない。腕まくりをした袖が微かな衣擦れの音を立てた。

「キス……?」
「あぁ。ずっとこうしたかったんだ」

 近づく距離に驚いて思わず閉じてしまった瞼に、そうっと触れる温度。

「びっくりしたか? もう少しだけ目、閉じてていいからな……」
「ん……」

 言われる通りそうしたものの、それはそれで何も見えなくなる。薄闇の向こうから頬に触れるものが何なのかはわかるけれど。

「可愛いな。みどりは本当に」
「ディーノ……」
「みどり」

 ことばを塞いだのも唇だった。そうと実感したとたん、心がふわふわと浮かんでいく。わたしにまでディーノの様子が伝染したように。

 びっくりして、慌てるしかなかった最初の気持ちが溶けていく。

「……みどり」

 二度、三度。キスがあった。目を閉じていてよかった。こうしていたって、今のディーノの熱に耐えられるとは思えない。もし視線が合わさったなら心臓が壊れてしまうほど跳ねてしまう。冗談では済まされない予想のせいで、いつしか両手を胸の前で握りしめていた。

 だって、ディーノはずっとこうしたかったと言った。本当の欲求を、わたしが驚かないように隠してくれていた。そしてそれがどれだけ苦しいかも、隠し続けることは火に薪をくべ続けるも同然だということも知っている。ことばは呑み込んでも消えない。お腹の中に留めておいた時間の分だけ大きくなる。

 ディーノはやっとわたしの目の前に出した。出してしまった。

 唇をたどっていく濡れた熱は、そういうこと。

「ん、ん……?」
「大人がするキス、みどりは知ってるか」

 本当に微かな水音を立てて離れていったものがディーノの舌先だと、そこでようやく理解した。

「知らなくてもいいか。オレが教えたらいいんだ」

 知らず知らずのうちに引き結んでいたところをこじ開けるのかと思わせるそれが、再び。唇をなぞって、割り開いて、入ろうとする。

「みどり」

 呼ばれる名前が、何を言いたいのかわかってしまう。だけど、どうしよう。まだそんな心の準備なんてできない。

 今のキスだけでおかしくなりそうなくらい熱を受け取ってしまっているから。

 でも。

教えて

ディーノが知ってること全部知りたい

#……

 ディーノはふと目を見開いてわたしをまじまじと見つめた。そこには熱に浮かされていた気配はあっても先ほどとは全く違う。泣いても笑っても押し切られてしまいそうな勢いがない。つまりはいつものディーノ。

「あわわわわわ……」
「みどり……」

 神妙な面持ちでなおかつ超スピードでベッドを降りたディーノはすっと背筋を伸ばした。そうして現れたのは。

「本当に悪かった!」

 なんて綺麗な最敬礼。ついつい見とれてしまった自分にはっとして、このままにしておいたら床にめり込み始めてしまいそうなディーノを引き起こしにかかる。

「そんなことないよ! もともとはわたしがうっかりしてたから」
「それはそれ、これはこれだ! 怖かったよな、ごめんな……」

 脱力してちゃんと立てないわたしの髪を撫でながら声を落として。

「ちゃんと埋め合わせさせてほしい。何でも言いつけてくれ」
「えぇ……」

 全然ちっとも怖くなかったといえば嘘になるけれど、どきどきの方が勝っていたあの時間を思い起こして一気に頬が熱くなる。

 ともあれそこまでお願いされてしまうと、とりあえず考えてみる構えになる。カフェやスイーツのお店に連れて行ってもらうのは、いつものデートと変わりない。ということで変わり種を提案するのはどうだろう。ディーノが衝撃のあまりより正気に戻るようなアイデアは……。

大人のキスして

ここにお泊まりさせて

#わたし今なんて?

「あれ……?」
「んん……?」

 口にしたことばは思ってもみないことだった。ディーノもぽかんとして私を見つめている。

「あっ、待って待って! リテイク……」

 させて、と続けようとしてやめた。

 思ってもみない、なんてことは嘘だ。どちらも心の片隅で思い描いていたこと。優しいディーノを困らせないようにと表に出すことはしなかっただけで。

 あの魔法はわたしにも効果があったのかもしれない。

 今まさに、どうしても叶えてほしくて仕方なくなっているのだから。

「……ディーノ、お願い」
「……悪い子だ。本当に悪い」

 ふっとこぼれる笑顔は、悪だくみをする悪い大人のものだった。どきどきして目が離せなくなる毒は、赤ワインの味をしているのかもしれない。

「みどりはどこでそんなことを覚えたんだ?」
「だって……」
「今さら撤回は受けつけない。このタイミングで何てこと言うんだ……」

 唐突に視界が暗くなった。

 ディーノがわたしの目を手で覆ってしまったから。

「これは、みどりのせい。悪い大人を焚きつけたらどうなるかちゃんと覚えるんだぞ」

 ――喉を鳴らしたのはわたしとディーノ、どちらだろう? ふとそんなことを考える。

 きっとどちらでも、これから起こることは変わらないだろうけど。


(あなたがゲームの世界に入った時に使える魔法を5つ調べますガチャより)